松方ダンナへのエール
松方弘樹が脳腫瘍の疑いで入院、というニュースはショッキングだった。
検査の結果、脳リンパ腫とのことで、今後は治療・療養に専念するという。
意外な人が意外な病。それにしてもこうまで動揺させられるとは、自分でも驚きだった。
やっぱり、大きな存在である。
なんだかんだで、かなり画面を通して接触している人なのだ。
その年に観た映画をまとめて、誰の主演作がいちばん多かったかなどと統計してみたら、松方ダンナがトップだったりしたこともある。
映画産業が娯楽のなかでも大きな比重を占めていた頃は、「スター」という言葉が生きていた。
今や「スター」の語はたとえ使われたにしてもどこか白々しくピンとこないものになってしまっているが、松方弘樹らの世代はこの単語がかろうじて適用できる最後の世代ではないだろうか。
時代劇の世界では現在だと松方ダンナに里見浩太朗、北大路欣也が三大巨塔といったところか。
北大路欣也はリメイク作が多くて自身の当たり役に恵まれておらず、ついに大当たりを取ったのがCMの白い犬だったりして、なんだかなぁ、な印象。近年では『華麗なる一族』や『官僚たちの夏』『運命の人』といった現代劇でのフィクサー的役どころのほうがむしろハマッているようにも思える。
里見浩太朗は、十年にもわたりニセ黄門(にしか見えなかった)をやり続けて晩節を汚し、もはや見苦しい。
そこへいくと松方弘樹の、まだ(Vシネ等でだが)主役を張りつつ渋い脇役へもシフトしての活躍ぶりは、往年の嵐寛寿郎や片岡千恵蔵、萬屋錦之介などに通ずるところがあって、ますます“最後のスター”の風格がある。
ヤクザ映画の印象が強すぎるうえ、目をムイた相当わざとらしいオーバーアクトなんぞは苦笑のタネだが、それもまたご愛嬌。松方ダンナの楽しみ方の一端である。
チャンバラ名人だった近衛十四郎のジュニアとあって、スピード感ある太刀捌きを売りにしていたが、割と刃筋はブレブレ、見た目に誤魔化しているところも大きかった。──というのは若い頃の話。驚くべきことに齢を重ねるごとにケレン味が消え、迫力の増した殺陣を見せるようになった。まさに円熟の味、だろうか。とりわけ素晴らしかったのはライバル役を演じた『密命 寒月霞斬り』におけるVS榎木孝明戦。
ほかにも『十三人の刺客』リメイク版や最新主演作『柳生十兵衛世直し旅』の立ち回りも充実していた。復帰してスーパーじじいぶりをもっと見せてほしいと切に願う。