任侠映画総覧計画『監獄人別帳』リブートした網走番外地!
『監獄人別帳』(1970年4月/東映京都)
脚本:石井輝男、掛札昌裕
監督:石井輝男
出演:渡瀬恒彦、佐藤允、伊吹吾郎、大辻伺郎、尾藤イサオ、賀川雪絵、沢彰謙、上田吉二郎、沢淑子、荒木一郎、清川虹子、内田良平、嵐寛寿郎
監獄人別帳 [ 渡瀬恒彦 ]
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『網走番外地』シリーズの看守さんといえば関山耕司、山本麟一あたりのイメージが強い。権威をカサに威張り散らして健さんら囚人をいじめるものの、当然あとでヒドい目に遭うってのがお決まり。よくお巡りをブッ殺す東映らしい展開と言えようか。
シリーズが石井輝男の手を離れ「新」になっている間に、ご本尊の石井カントクは主人公〈橘真一〉を復活させた。東映入社したての渡瀬恒彦で。しかも京都撮影所で。それが「人別帳」シリーズ二作だ。
渡瀬デビューの『殺し屋人別帳』に続く第二作『監獄人別帳』は『網走番外地』第一作の焼き直しと言っていい。もっとも、かなり硬派だったオリジナルに比べると大分“不良性感度”高めのお下品路線を突っ走っている。
貧しい暮らしのなかから極道者になり殴り込みの果てが網走監獄行き、妹の手紙で母親の重病を知るという橘真一(渡瀬恒彦)の設定は変わらず、もう一人の主軸となる吉岡(佐藤允)の復讐物語がストーリーを引っ張る。父を殺した警察長官(沢彰謙)を討ち果たすべく親兄弟ぐるみの脱獄計画、今回の網走は吉岡の妹(賀川雪絵)もいるため女囚部屋も絡んできてピンクな要素も割り増し、いよいよお下品という趣向である。
シリアスからおふざけ全開まで多様だった『網走番外地』、本作は最もシリアスだった第一作を思いきりハッチャケさせて焼き直したようなもので、当然の如く鬼寅親分(嵐寛寿郎)も登場してしまうのだが、もはやこの人は説明不要レベル。都合のいい最終兵器といった扱いで大いに笑わせてくれる。これ網走シリーズとして観ていない人は訳が判らず置いてけぼりなんじゃないか。「何だこのチートじじいは!?」てな塩梅である。
狙いすぎがあざといようなお笑い部分や、ちょいとテンポを削ぐお涙頂戴の回想(見どころはガッコの先生・波多野博か)が引っかかるなァ、なんて思うようになっちまったらもう立派な網走シリーズマスターである。
そんな上級者の皆さんには、ゼヒ京都撮影所版・網走番外地の看守さんたちを楽しんで戴きたい。
やたらデキすぎた人物の内田良平はともかく、兇悪そのものと言える他の面々は千葉敏郎、阿波地大輔、鈴木金哉といったコワモテたち。残忍にして好色。実にいい味を出しているのである。せっかくの京撮版「網走」なのだから、どうせなら他にも小田部通麿、北川俊夫、有川正治、秋山勝俊、志賀勝といったイカツい顔ぶれを総動員してきて欲しかったところだ。
そして何より特筆すべきは、やはりこの人だろう。東京撮影所の顔と呼べる名脇役のひとり、石井カントクお気に入りでもある沢彰謙が、京撮版「網走」のラスボスという大役に抜擢されている点である。この人、旧シリーズじゃ皆勤賞だったんではなかろうか、初回の健さんに飯をなすりつけられる継父役を筆頭に、良いおじさんからコスい悪党まで幅広くこなしていたが、いよいよ最後の血祭りにあげられる大悪人のポジションである。網走シリーズ愛好者なら、この配役に涙せずにはいられないハズだ。
ところで。
今回はこの「任侠映画総覧計画」に異色とも思える『監獄人別帳』を組み込んでしまったのだが、そもそも『網走番外地』って任侠映画なのだろうか。
一般には任侠映画中の人気シリーズと目されることが多く、デァゴスティーニの『東映任侠映画DVDコレクション』ラインナップにも網走シリーズは入っているのだが、果たしてこのくくり方は正しいのだろうか。高倉健・主演という看板の力に誤魔化されているうちはまだしも、リブートして渡瀬恒彦・主演作品となると、一気にその扱い方は難しくなってくる。
そもそも任侠映画って、どう定義したらいいのだろう。
重大な問題の壁にぶち当たったところで、次回はその定義についてつらつら駄文をつづってみようかと思う。