任侠映画総覧計画『昭和残俠伝 吼えろ唐獅子』
東映が誇る看板シリーズ『昭和残俠伝』全9作のうち、8作目にあたる。
最高傑作と称される第7作『死んで貰います』を頂点にやはり翳りは隠せないラスト二作(『吼えろ唐獅子』『破れ傘』)は、任侠映画ファンにとって些か複雑な思いを抱かせる作品に仕上がっている。何となれば、テコ入れのつもりなのかスペシャルゲスト的に鶴田浩二が投入されているのだ。
高倉健・池部良の二枚看板をもって様式美が形作られてきたシリーズに、もう一人の雄・鶴田のおっさんが放り込まれるとは! そして実際そのことによって残俠伝ワールドのパワーバランスは崩されてしまったように見受けられるのである。
『昭和残俠伝 吼えろ唐獅子』(1971年10月/東映東京)
脚本:村尾昭
監督:佐伯清
出演:高倉健、池部良、松方弘樹、松原智恵子、葉山良二、光川環世、諸角啓二郎、沼田曜一、高野真二、玉川良一、中田博久、清水元、沢彰謙、河合絃司、田口計、植田灯孝、鶴田浩二
昭和残侠伝 吼えろ唐獅子 [ 高倉健 ]
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今回の花田秀次郎(高倉健)は、一匹狼の旅人。草鞋を脱いだ黒田組の若い衆・文三(松方弘樹)に力を貸し喧嘩の助っ人をする導入から、親分(葉山良二)に寝取られた恋人・おみの(光川環世)と駆け落ちした文三を追う道中、旅先での風間重吉=文三の異母兄(池部良)や人格者親分・三州政治(鶴田浩二)との邂逅などを通じ、これでもかと「筋の通った」渡世人像を示す。
一宿一飯の掟で、ろくでなしの親分に仁義を尽くさなければならない秀次郎。しかしその理不尽が度を超え、我慢は限界に達する。
準主演とも言える格で、悲劇の役どころを与えられるのは大映から出戻った松方弘樹。好演だが如何せん汚れ役で本領を発揮する以前の半端な立ち位置ゆえ、良くも悪くも作品に影響を与えるまでに至らない。
影響が大なのは、松方演じる文三とおみのを預かる三州親分=鶴田浩二の存在である。女房に納まっている松原智恵子が健さん=秀次郎の元恋人なんてロマンスはさて置き、ずっと健さん/池部良の同性愛的カップリング映画として成立してきた『昭和残俠伝』シリーズの中にもう一丁メインディッシュを放り込もうという欲張った考えは、失敗としか言いようがない。
一宿一飯の義理を種に三州親分殺しを命じられる秀次郎。一対一の勝負は途中で黒田組の刺客が介入しお預け。これが元で完全に秀次郎は愛想尽かしをして黒田組の敵に廻る。
そして病のおみのを看取った文三は黒田組の手にかかって惨殺、兄たる重吉が立ち上がる。これに秀次郎が同行し、お馴染み唐獅子牡丹の唄をバックに道行きと相成る。
当然ながら、三州親分も殴り込みの最中に合流して力を貸す。斃れた重吉をそのままに、傷ついた秀次郎が三州親分の肩を借り去っていくラストシーンは、実に複雑な感興を催させるものだ。何と形容すればいいのだろう、三角関係じみたモヤモヤ感か。ファンがずっと贔屓にしてきた健さん/池部良の間に鶴田浩二が割り込んで水を差してしまったようではないか。
1971年頃ともなると、やはり任侠路線も下り坂。それはドル箱シリーズとて避けられない時節の流れというものかもしれない。離れていく客を呼び戻すためには豪華ゲストを投入して派手々々しくする方向へと傾く。が、やっぱりそれは却って美味しいところを削ぐ結果にしかならない。
次作『破れ傘』になると、さらに北島三郎、安藤昇までが加わり、いよいよ散漫な出来上がりになってしまっていた。そう考えるとこの『吼えろ唐獅子』はまだ良いほうだったのかもしれない。形骸化してきてしまった主演格三人よりもむしろ松方弘樹の成長過程を示す作品と言えようか。