おくやみ──木下忠司・井上堯之
新聞の訃報記事から。
作曲家の木下忠司氏、死去。
なんと!
いわずと知れた木下恵介監督の実弟、数々の映画やテレビの音楽を作った巨匠だ。
4月30日、老衰で。102歳とのことである。
失礼ながら、もう既に鬼籍に入られていたかと思っていた人物だったため、二段階の驚きだった。即ち「エッ、まだ存命だったの」「ああっ、亡くなったのか」というステップを踏んだびっくり。
案の定、見出しは〈「水戸黄門」主題歌〉で、記事先頭に挙げられるのは『喜びも悲しみも幾歳月』と『水戸黄門』……やっぱりそのあたりが代表作なんであろうか。
兄・木下恵介監督作品はもとより、その他映画やテレビドラマ劇伴にだって名作は多い。
テレビ時代劇に限ってざっと担当作品を挙げてみると……
『水戸黄門』
『破れ傘刀舟悪人狩り』
『破れ新九郎』
『桃太郎侍』
『鬼平犯科帳』(萬屋錦之介版)
『柳生新陰流』
『長谷川伸シリーズ』
『一心太助』(杉良太郎版)
単発作品に『それからの武蔵』『宿命剣 鬼走り』や「東芝日曜劇場」中の時代劇作品など多数。
などであろうか。
『水戸黄門』に関しては、メインテーマや主たる劇伴はずっと使われてきたが、後年になって別作曲家の作と思われる劇伴が付け足されていったような気がする。長年にわたってオープニングを飾りつづけたあのマーチ調「あゝ人生に涙あり」のイントロは氏の作品中最も多くの人の耳に残っているのではないか。
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しかし個人的に最高傑作として推したいのは、その「あゝ人生に涙あり」イントロの裏返しともいうべき旋律が刻まれている『破れ傘刀舟悪人狩り』メインテーマ。とりわけ三船プロダクション作品お馴染み夕陽が大写しとなったバックに達筆・田村繁清の書き文字クレジット、そしてこの木下サウンドが重なるエンディングは、刀舟先生の物語を締めくくるには完璧としか言いようのないひとつの形を成していた。
そう、夕陽といえば『特捜最前線』もまた氏の仕事であった。フォントこそ味気ない活字明朝体のクレジットではあるものの、毎度やるせない苦味の濃い物語を締めくくる「私だけの十字架」のメロディー。これもまた名作だ。
よく間違えてる人が多いのだがクロード・チアリじゃない。ファウスト・チリアーノが歌って木下忠司が作曲しているのである! チアリの曲が使われてんのは『京都殺人案内』だァ!!
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刑事ドラマ繋がりの訃報が並んでしまうのは悲しいが、5月2日、井上堯之氏も死去! 敗血症。77歳とのこと。『特捜最前線』『太陽にほえろ!』という二大刑事ドラマの音楽に関係する二人の逝去を伝えるニュースが並ぼうとは……。
ひたすら、冥福を祈るよりない。
合掌。
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