祭りのあとにさすらいの日々を
何てこったい……。
好き嫌いの激しいアチシだが、どうにも嫌いになれない俳優のひとりである。いや、嫌いになれない俳優のひとり「だった」と過去形にしなくてはならないのか。
ファミリー劇場の『太陽にほえろ!』マカロニ刑事編は大詰めを迎えようとしているが、追悼放送になってしまった。
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マカロニをはじめ代表作『傷だらけの天使』など、危険な香りプンプンだった若い頃はもちろんのこと、年齢を重ねての味わいもイイ感じだった。丸くなりきらない永遠の不良ってなモンである。
68歳の死は、長寿化の一途を辿る現在にあって随分と早い。合掌。
それに対して92歳の大往生だが、織本順吉も亡くなっていた。
この二人が共演した『裏切りの明日』(1990年・東映Vシネマ)をつい先日観たばっかりだった。
Vシネ黎明期に巨匠・工藤栄一を担ぎ出しての意欲的な企画……なのだろうが、いかんせん大物と化してからの工藤監督は、「どうだスゲえ画だろ」と言わんばかりに観る者置いてきぼりの映像を繰り出してくる感があって、どうも鼻につく。
アチシは別に通人ぶったりして、そういった作家性を神格化したいとは思わない手合いなので、むしろ『必殺』シリーズなどの1時間モノで小ざっぱりと仕上げた作品のほうが好感を持てるのである。
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『裏切りの明日』では、滅びの美学を体現するのがショーケン。したたかなしぶとさを見せつけるのが織本順吉だった。現実でもその通りみたいな最期がここに並んで、何とも不思議な感慨に襲われている。
このところ工藤栄一監督作品をやたら観まくっているところなので、いずれまた『裏切りの明日』に関して書くかもしれない。
御用牙(1972)
コレ前に観たのっていつだっけ……ってな久々の再見だが、最初の衝撃を上回るくらいの打ちのめされる映像体験に戦慄。
型破りな同心・板見半蔵の活躍を描く小池一夫(一雄)・神田たけ志の劇画『御用牙』を折からの劇画映画化ブームに乗って勝プロダクションが放った同題作品第一弾。同じく小池一夫作品である若山富三郎・主演『子連れ狼』シリーズと抱き合わせ二本立て興業でのプログラムってのがまた飛び切りイカレていて素晴らしい。
北町奉行所隠密廻り同心・板見半蔵(勝新太郎)は、奉行(小林昭二)を前に“形式だけの”誓詞血判を批判、奉行所内の腐敗堕落ぶりをぶち上げるという横紙破りの硬骨漢。上役たる筆頭与力・大西孫兵衛(西村晃)からも煙たがられている存在だった。
そんな半蔵が配下から聞き出した情報は、大西の弱みを握っておくに格好のスキャンダルであった。大西が囲っている妾・お美乃(朝丘雪路)が、刑死しているはずの殺し屋浪人・三途の竿兵衛(田村高廣)と乳繰り合っていたという。
お美乃を“坐禅ころがし”の責めにかけ籠絡、大西が五百両と生き人形=お美乃で買収され、竿兵衛を密かに逃していた事実を掴んだ半蔵は、さらに調べを進めてその背後にいる大物を手繰り寄せる……。
当時ヤングだった団塊世代が狂喜して観ていたであろうピカレスク的バイオレンスポルノ時代劇。デカいナニを武器に女は思い通り操れてしまうというマコトに単純と言おうか、どーしようもないオトコの理想妄想を絵に描いたいつもの小池節全開作品で、フェミニズム運動か何かの向きからすれば女性蔑視も甚だしいと大ブーイング必至であろうが、いやはやエロジャンルの精神性は時代が下ろうとも変わることがありますまいて。
昭和が終わろうが平成が終わろうが世のオトコ思考に何かしら目立った進歩があろうなどとは到底思えないというのはアチシの白けきった諦念でござんしょうか。
理屈はさておいて、ケシカラン作品でありながら困ったことに面白くて仕方ないこの『御用牙』、改めて三隅研次という監督の並々ならぬ映像センスをまざまざ見せつけられる逸品である。
しっとりとした文芸モノも情感豊かに仕上げる一方で、ケレン味たっぷりな鮮血の美学も得意とする監督なのは、ワカトミ版『子連れ狼』シリーズで実証済み。人体破壊描写のオンパレードで単なる悪趣味バイオレンスになりかねないところを、テンポのいいアクションとして捌いている演出は神がかり的でさえあった。
マニアの間では伝説にもなっていよう『子連れ狼 死に風に向う乳母車』での落とされる首視点の画など、ただもう呆気に取られるしかない、三隅演出ひとつの到達点である。
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ところがどっこい、驚くのはまだ早い。この『御用牙』ではさらにイカれた映像がお目見得するのだ。
半蔵ご自慢のナニ視点。
米俵でのトレーニングや、お美乃への“坐禅ころがし”に用いられるそのショットは、いわば露骨すぎる表現なのだがある一定の節度を保っており、観る側のイマジネーションに任せるという離れ業……。ううーむ、本当に天才かキチガイのどちらかとしか言いようがない。
劇画原作を映画化する上で、より視覚的にインパクトのある映像表現を目指したものか。三隅監督の仕事の中でも、とりわけこの時期の勝プロ作品群は異彩を放っている。
あまり気を張って見入っているとトリップしそうな映画だが、その悪酔い感にトドメを刺すごとくラストはザ・モップスの主題歌で締めくくられる。70年代の混沌が画面から溢れ出すかのよう。
記録を遡るとアチシがこれを最初にビデオで鑑賞したのは、かれこれ10年以上前の中学生時代であった。なんて教育に良い映画なんだろ。
オトナになった(?)今の目から改めて評価しよう。これは岡本喜八監督の『大菩薩峠』に負けない、日本映画史に輝くドラッグ・カルチャーだ!
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『御用牙』
1972年12月30日封切 製作:勝プロダクション/配給:東宝
出演:勝新太郎、朝丘雪路、田村高廣、西村晃、渥美マリ、山内明、草野大悟、蟹江敬三、石橋蓮司、松山照夫、小林昭二、嵯峨善兵、藤岡重慶、山本一郎
・昨年亡くなった朝丘雪路、CS各局での追悼企画などにも本作は挙がっていない(当然か)。だが個人的な意見ではこの「パイパンの妾」役こそ朝丘雪路の代表作だッ!
ミッション東映太秦映像
このところのホームページ(チャンバラ狂時代)更新は、長七郎やら八百八町夢日記やらあばれ八州やら、ほぼ東映太秦映像の作品ばっかりになっている。
ご大層な言い方をするならば、テレビ時代劇を中心に、製作に携わっているキャスト・スタッフ陣の分布図を体系的に俯瞰するアーカイヴみたいなものをこしらえたいというのがアチシの見果てぬ夢なのだが、そんな野望のプロセスにあって眼前に立ちはだかるひときわ巨大な壁のひとつが東映太秦映像(旧・東映京都制作所)である。
さすがにTBSのナショナル劇場を一手に引き受けていただけあって、作品量が膨大なのだ。
『水戸黄門』だけでも1000本オーバー。『大岡越前』は約400本。『江戸を斬る』シリーズも200本以上……この三大シリーズに加えて『翔んでる! 平賀源内』『水戸黄門外伝 かげろう忍法帖』『南町奉行事件帳 怒れ!求馬』などもあったりして、全体像を掴みきるのは果てしなく長い道のりとしか言いようがない。
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さらに日テレ夜8時の里見浩太朗アワーやそれに続く高橋英樹主演の『江戸の用心棒』といった作品群、テレ東の『疾風同心』『八丁堀暴れ軍団』『あばれ八州御用旅』などや『逃亡者おりん』『お江戸吉原事件帳』『密命 寒月霞斬り』といったナショ劇以外のものも相当な本数になる。
これらの中でひときわ目立つのは、萩屋信キャメラマンの活躍ぶりか。撮影者として登板回数は断トツなのでは……というのも全体をしっかり見通せぬうちは軽々しく口にしちゃイカンことだが、とにかく目にすることが多い。
太秦映像系の面々も時代劇スタッフ人別帳に加えたいのは山々なのだが、やはりチェックできている絶対量が少ないので、つい尻込みをしてしまうのだ。
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ところで日テレ里見アワー、長七郎に並ぶ看板であった『八百八町夢日記』。最近やっとテレビ時代劇資料庫にページを作った。
この作品、アチシにとっては何かと厄介な代物として敬遠しがちになってしまう鬼門?作品だったりする。
何が厄介かって、まず、しょっちゅう再放送されているのでつい油断して録画逃しを多発する。次に、スペシャル版を飛ばしての再放送が多いため視聴のモチベーションが下がる。そして、何故か第1シリーズのキャストクレジットはゲストの役名表記がない!(役名チェックに神経を払わねばならぬのである)
これら原因があって手を出すのが躊躇われる作品なのだ。
しかし太秦映像のデータ収集を進めるには避けて通れぬ道のひとつだからして、今後はコンスタントに調査を進めていきたい。
幸い、ホームドラマチャンネルでの放送も現在進行系で行われている。
例によってスペシャル版は除かれているのが玉に瑕だが、今月29日からはBS日テレでも再放送が始まる。こちらはスペシャル版を前後分割した形で放送するようなので、度重なる録画逃しをしていたぶんもようやく補填していけるであろう。
時代劇は言うに及ばず、CS各局にて放送される映画や刑事ドラマ、2時間ドラマなど、とにかく録りまくっているおかげで整理しきれぬまでにDVDが増えまくっている。
あれもこれもと欲をかきすぎているきらいがあるが、新規に増やすぶんを抑えて消化していくのを目標に据えよう。
ホームページの移行
寝耳に水だったが、Yahoo!ジオシティーズは来年3月いっぱいでホームページのレンタルサーバーを終了するとのこと。
ジオのファイルマネージャは非常に使い勝手がよかったので、実に弱る。
ブログ全盛期も既に過ぎ、SNSの時代なのだろうか。
ファイルマネージャでシコシコとHTMLタグを打ち込んでウェブサイトをいじっている人間なんぞ、企業側からするとあまり“喰い物にならぬ”無価値なものなんでしょうなァ。
わがホームページ(チャンバラ狂時代)トップにも告知を出したが、直前にアタフタするのは厭なので、早めにお引越し用意をしておくこととする。
自分では勝手にライフワークみたく思い、穴だらけのリストを少しずつすこぉーしずつ作っている様は滑稽でしかないだろうが、今さらYahooさんの都合ひとつで水泡に帰すのも勿体ない気がして、貧乏ったらしく他所の軒先を借りて続けていく所存なのである。
トップページやら文章ページなど、手を入れたいなァと思い続けながら何もしてこなかったこともあり、いい機会だったかもしれない。
かつて個人ホームページというスタイルが元気だった頃にはサイト間で相互にリンクを貼り合ったりの“慣習”なんかがあったものだが、これも昨今あまり用を成さぬ行為なのかもしれない。
うちもお引越し後の新サイトからは、リンクページは撤廃するとしようか。
ちなみにYahooさんが提示してくれていた代替サーバーによさそうなものはナシ。
勝手に探すさ。
トリッセンエンタープライズ制作って?
先日『MIFUNE:THE LAST SAMURAI』(なんとびっくり製作はC・A・Lじゃないか!)という映画を観て、物凄くムカッ腹が立った。三船敏郎のドキュメンタリーとは嬉しいじゃないか、と期待タップリだったぶん幻滅が尋常でない。
なんのことはないミフネの旦那をダシにして、手垢のついた「クロサワ監督凄いね」の話を繰り返しているだけの映画ではないか。
“黒澤明監督作品の主演スター”としてしかミフネを論じない風潮にはウンザリなのだが、その悪弊は一向に衰えることを知らない。観終わったあとのアチシの顔はプロダクション社長時代のミフネばりに苦虫を噛み潰したようなしかめっ面であった。
律儀すぎる人柄ゆえに、ひとたび創設してしまった三船プロダクションという大所帯を維持するべく(おそらくは)意にそまなかったであろうテレビ仕事をセッセとこなし、家庭内にもゴタゴタを抱え、悲惨な晩年を迎えたミフネ。その実像を知るのには、ぜひ松田美智子・著『サムライ 評伝三船敏郎』(文藝春秋)を一読して欲しい。
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ところで三船プロダクションに関して、ずっと疑問に思っていたことがあった。
三船プロの2時間ドラマで制作クレジットが「トリッセンエンタープライズ」になっているものがあり、こりゃ一体どういうことかのう、と気になって仕方がなかったのだ。
火曜サスペンス劇場(日本テレビ)『10万分の1の偶然』(1981年12月29日)
ザ・サスペンス(TBS)『殺人刑事が愛した女』(1982年6月12日)
今のところ確認できているのはこの2本。トリッセンエンタープライズというのはおそらくトリッセン・スタジオの別称とみてよさそうで、他にも「装置・トリッセンエンタープライズ」などとなっている作品は散見できる。
どうして「制作:三船プロダクション」とクレジットされずトリッセンエンタープライズ扱いになっているのか……と気になって気になって仕方なかったのだが、今日の食後、酒をくらい煙草をふかしている最中にフトひらめいた(それほど日常ずっと映画やドラマのことばかり考えておるのじゃ)。
ヒントになったのは鯖世傘晴サンのブログ「Theブログ☆穴あきおたまでグッドイーブニン」(http://sabajanee.darumasangakoronda.com/)。熱心な東映フリークである鯖世サンは“東映裏被り”をリストアップしておられ、同時に制作クレジットの表記分けなんかにも考察を加えていらっしゃる。
これだ! 裏被りだァ!!
当時『大江戸捜査網』と裏被りしていた土曜ワイド劇場で放送された『吉展ちゃん事件 戦後最大の誘拐』は、三船プロが実質制作していながら協力クレジットも表示されなかった……と思うと、他の「トリッセンエンタープライズ」表記の作品も裏を確認すると説明がつく。
『10万分の1の偶然』の1981年12月29日・火曜夜9時台。裏はテレビ朝日系で『文吾捕物帖』だッ!
『殺人刑事が愛した女』の1982年6月12日・土曜夜9時台。言わずと知れた土ワイの裏で、これはもうテレビ東京系で隠密同心たちが大活躍している時間帯ですわいナ。これなら土ワイもトリッセン扱いでばんばん参加させてくれりゃよかったのに……とは言うても詮なき恨み言。
ついでにもう一つ、1982年12月7日の火サス『交通事故死亡1名』(クレジットは三船プロダクション扱い)もフジテレビ系夜10時台『暁に斬る!』とバッチリ被っているのだが、こちらはヴァンフィル制作・三船プロダクション制作協力の形ゆえか表記を分けることなく堂々と裏でぶつかり合っている。いいのか?
なんにせよ長年(?)の疑問がこれで氷塊した気がして随分と晴れ晴れした。
ミフネの……と見せかけてクロサワのドキュメンタリーだった映画でくすぶっていた憂さも幾らか霧消したというものである。
ちなみに『MIFUNE:THE LAST SAMURAI』だが、見どころも一つあった。それはデビュー間もないミフネがアメ横の放出毛布を下宿でチクチク縫って作ったというコート&ズボン。
下宿の隣室を世話してやったという岡本喜八監督により語られているエピソードだったが、初めて実物を見ることができた。なんとまァ丁寧に誂えてあることか! 改めてミフネの几帳面な人柄が思い知らされた。
HP更新のこと、東映太秦映像のこと、編集技師のこと
このところ、割とコンスタントにホームページ(チャンバラ狂時代)更新ができている。
手元に紙媒体で資料が溜まりまくっている年別放送リストも、やっとこさ1989年分がまとまったので載せるまでにこぎつけた。
その他、松方弘樹の『名奉行遠山の金さん(4)』は時代劇専門チャンネルの放送によってスペシャル版まで全て録画完了したのでサブタイトルリストをどどーんと追加。『水戸黄門(17) 』に2時間ドラマ京都殺人街道シリーズなんかもアップ。自己満足に浸るにはデータ量が少なすぎてアレなのだが……。
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ほとんどビョーキと言ってもいいアチシのクレジット採取の道楽、日々スタッフロールまでシコシコと書き写し、見る名前見る名前みんなお馴染みさんのような感覚になってくる。「ああ○○さん、こんなところでもお仕事ですかァ」ってなモンである。
特に所帯が小さめの京都映画制作作品なんかは、大体いつも同じような顔ぶれ。『必殺』に関わっている人たちが他の時代劇や2時間ドラマでも職人技を発揮しているのが見受けられる。
そこへいくと流石に東映なんかはスタッフ陣も数が多く、おまけにかつては「京都撮影所」本体に加え「京都テレビプロ」「東映太秦映像(京都制作所から改称)」と三つの系列でそれぞれ稼働していたから、各社でスタッフの顔ぶれもちょっとずつ違ったりしていたものである。使っているセットやスタジオは同じなのだけどネ。
テレビプロは平成初頭に解散、太秦映像も気がつけば一昨年であったか消滅しており(井上泰治監督の映画『すもも』が協力会社として太秦映像の名を連ねた最後であった)、NHKのBS時代劇で『大岡越前』の新作が作られてももうそこに太秦映像の名はないというこの物哀しさ……。
TBSナショナル劇場では『水戸黄門』『大岡越前』をはじめ『江戸を斬る』『翔んでる! 平賀源内』など逸見稔プロデューサー独裁体制みたいな一連の作品群を、そして日テレでも『長七郎江戸日記』に始まる里見浩太朗アワーと言える火曜8時枠の時代劇を請け負っていたのが東映太秦映像。
スタッフ顔ぶれはキャメラマンに萩屋信、原田裕平、片山顕、小林善和、長谷川光徳ら。照明技師には伊勢晴夫、真城喩、武邦男、井上義一、面屋竜憲、大谷康郎……録音は渡部芳武、神戸孝憲、草川石文、木村均、中川清……本当にいつも書き写しているおかげで、会ったこともないのにまるで古い付き合いの知人のような感覚になってしまう。
もちろん東映太秦映像に所属とかいった形ではなく、フリーの契約者であったりとか関わり方は様々だろうが、ほぼ固定のように出てくる名前なので、否応なしに「太秦映像の人!」とイメージがついてしまう。
これらの方々の功績を刻んでおきたいと無謀にも立ち上げたページが時代劇スタッフ人別帳なのだが、ちっとも仕事が進んでいないのが実状……情報がちーとも手に入らないもので。奇特なお方がいらっしゃったら何か手づるをチョーダイ、と乞うて回りたいのが本音である。
ところで太秦映像の作品、黄門の例を挙げる間でもなくマンネリ路線の代表格みたいなものがずらり並ぶのだが、ちょっと観始めるとついつい引きずられて最後まで観ちまう……なんてことが多い気がする。
ナショ劇にしろ長七郎にしろ、亡くなるまでずっと編集を担当していたのは河合勝巳氏。本で言えばリーダビリティ(読み易さ)、映像の場合は何と呼ばれるのか知らないのだが、とにかく観るに快適な繋ぎのテクニックが素晴らしいと思えてならない。
昭和三十年代の黄金期東映チャンバラ映画でテンポのいい神技的編集テクニックを駆使していた宮本信太郎氏に師事して身につけた職人技だろうか。
編集に関してはアチシが敬愛してやまない三船プロの阿良木佳弘氏と並べ、「西の河合、東の阿良木」なんて勝手に呼んだりしている。
そういえば火サスの『女検事 霞夕子』シリーズやら何やらで編集関係に「阿良木プロモーション」なる名を見かけたが、これはやっぱり三船プロが駄目になってから阿良木佳弘氏が独立して会社を立ち上げたとか、そういうことなのであろうか……。
ああー、気になることが多すぎて落ち着かない落ち着かない落ち着かないよう。
でもまァ落ち着いちゃったら人間お終いでしょ、などと考えているアチシだ。常に課題山積みで安穏としていられない状況に身を置いていればいいか、と開き直って眠れぬ夜を過ごすのである。
テレビで右太衛門御大の旗本退屈男!
今月から、東映チャンネルにてテレビ版『旗本退屈男』(1973-74)が放送されている。北大路欣也のじゃなくって、市川右太衛門ヴァージョンである。高橋英樹・主演『編笠十兵衛』が終わって次は『十手無用 九丁堀事件帳』でもやってくれんかなァと思っていたら、まさかの早乙女主水之介。いずれにせよ観たかった作品なので、東映チャンネル様様には感謝しきりである。
御年66歳の右太衛門御大がテレビで退屈男を……って、当時の視聴者はどう受け止めたんであろうか。アウトロー時代劇全盛とも言える時期に、随分とアナクロな企画だったのではないか。当時どんな作品があったのかは、我がホームページに
↑という放送リストのページがあるので参照されたい。
しかも驚くまいことか、東映制作ではあるものの京都でなく東京撮り。スタッフも『特別機動捜査隊』で見るような面々で固められている。監督こそ佐々木康ら馴染みある布陣で、殺陣師も足立伶二郎が呼ばれているが、右太衛門御大、ホームグラウンドの京都撮影所と違ってやりにくかったのではあるまいか。
高橋英樹が主水之介を演じた70年版は東宝作品、80年代に平幹二朗がやった時代劇スペシャル版も制作は映像京都だったので、東映京都に旗本退屈男が帰ってくるのは1988年より単発シリーズ化された北大路欣也版からということになる。
白粉お化けみたいなメイクをした右太衛門御大が、相変わらずの調子で「天下御免の向こう傷……」と大仰な台詞廻しを披露するこの73年版退屈男、往年の映画を楽しんでいたファンたちからしても時代錯誤に写ったのではないか……ってな気がするが、何と言おうか、これはもはや「芸」なのだろう。演技とかいう言葉ではくくれない領域のもので、御大にしか表現し得ない十八番なんだなァと再認識させられる。周りは通常のドラマ演技をしているから、御大が浮きまくりなのは致し方ない。唯一「芸」に近い味わいを出す品川隆二が付いていけている程度だろうか。
このスケールから比較すると、やはり「演技」で主水之介を作っているジュニア北大路版などは、霞んで見えてしまうのである。
小ぢんまりしたテレビ画面で流すには異質としか言いようのない右太衛門退屈男。こんなテレビ作品もあったのだなァと思い知らされる貴重な視聴体験である。
この番組を観るにあたって是非とも注目してもらいたい部分は、牧野由多可担当によるテーマ曲。
筝(そう)を使っているのだろうか、楽器に詳しくないアチシは曖昧なことしか言えないのだが、ビブラートの効かせっぷりが実に小気味よく、陶酔してしまう絶品メロディー。『お耳役秘帳』や『日本名作怪談劇場』でも冴え渡っていた和楽器名手の刻む旋律を楽しむべし!