任侠映画総覧計画番外地『抗争の挽歌』やくざ成分ひかえめ、映画愛てんこ盛り
およそVシネを観るときに期待感なんてモノは毛ほども抱かないのが常なのだが、いざ観てみると「案外と面白かった!」なんてのがあるから参る。
『破門組』に続いて、助さん退任後Vシネ界に活路を見いだしたものの弟・本宮泰風のパチモンみたいな立ち位置でパッとしない原田龍二主演作を拝見。
ところがびっくり、期待値ゼロで観たから案外イケた……とかいう次元の話じゃなく、ホントに面白でないのコレ。
『抗争の挽歌』(2013年10月リリース作品 72分)
制作協力:アスプロスドラーゴ/制作:メディア・ワークス
製作・発売:コンセプトフィルム/販売:オールインエンタテインメント
製作:及川次雄/企画:山本ほうゆう/営業統括:木山雅仁/プロデューサー:渋谷正一、山本芳久
脚本:浅生マサヒロ、松平章全
監督:浅生マサヒロ
出演:原田龍二、宮本大誠、石堂夏央、Koji、古井榮一、野口雅弘、小沢和義、中野英雄
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敵対勢力・海老名連合のトップをハジこうとして失敗した大阪やくざ・力石会構成員のロク(原田龍二)。刑期を終えて出所してみれば、力石会はすっかり海老名連合の風下に廻っており、若頭・権藤(中野英雄)主導のもとゲスいヤミ金をシノギとしている有り様であった。
男らしい任侠道への理想をくすぶらせつつ、しょせん現実に生きるしかないロク。荒れながらもヤミ金取り立てに精を出すのだが、そんなある日、元カノのチアキ(石堂夏央)と再会。チアキはロクと幼馴染みのド甲斐性なし映画狂・サブ(宮本大誠)と結婚していた。
四十にもなってまだ映画づくりの夢を捨てきれないサブは、ロクが海老名総長を襲撃した武勇伝を映画化するのだと息巻き借金まみれになっているようだ。“取り立て”目的で上京したロクは、いつの間にかダメ男・サブのペースに引きずり込まれ、やはり追っかけてきたチアキともども発破をかける格好に……。
一応やくざモノ。
しかし中身は映画にかける青春(正しくはおっさんがくすぶらせ続け未だ燃え尽きかねている青春の残滓)ストーリー!
本宮泰風から凄みを抜いたガス抜けビールみたいな龍二兄ちゃんもなかなかどうして荒ぶっており好演であります。
が、それより何より宮本大誠のどーしようもない映画狂プー太郎がイイ。救い難いろくでなしなのにロクもチアキもつい手を差し伸べてしまう魔のダメ男ぶりには妙な説得力を持たせる出色の配役だ。
冒頭でカッコよく描かれるロクの襲撃シーン。だがそれは作られた虚像であり、兄貴分・佐伯(小沢和義)が絡む真相が別にあった……との絵解きがなされ、ロクは(定番の流れであるが)裏切り者にオトシマエをつけに行く。
企画が通っていざ撮影になったサブの映画とロクによる実際のカチコミがカットバックで描かれるクライマックスは、もー素晴らしい高揚感なのである。
やくざVシネのくせに『蒲田行進曲』系と言おうか、映画好きの心をくすぐってやまない隠れ名作ここにあり。
キャスティングは当然Vシネお馴染み俳優陣ズラリではあるが、これまたオイシい割りふりが光っているので言及しておきたい。
卑劣漢や日和っちゃう根性なし親分とかいった役のハマる古井榮一(最近だと『大激突 果てなき抗争』森貞親分なんかがイカしてましたナ)は映画プロデューサー役。サブの持ち込んでくる脚本を読みもせず金だけまきあげております。堅気さん役でもいつも通りの味わい。
ロクの“親”力石会長には野口雅弘。これまた卑劣漢をやらせりゃピカイチの人だが、ラストがオイシすぎる。特別ゲストみたいな扱いで出ている小沢和義を霞ませるとは。野口雅弘ファン(いるのか?)なら必見ですゾ。
時代劇名曲集……勝手にリミックス!
Vシネやらセガールやら、随分とやくざ度合いが増してきてしまったこのブログ。ちょっとばかり本分に立ち返って時代劇絡みの話題を載せてみたい。
時代劇のCD。
主題歌や名曲オープニングテーマなどを集めた円盤。
ペリー荻野サン監修の『ちょんまげ天国』をはじめ数々のコンピレーション・アルバムが出されており、アチシも網羅とまではいかないまでも幾らか手元に持っている。
もっともこのジャンル、各アルバムで重複は多かったりして、集めれば集めるほど『旅愁』やら『だれかが風の中で』といった定番の名曲がダブりまくることになるのだが……。
そんな中でもひときわヒネった選曲がイカしていて繰り返し愛聴してしまうアルバムがある。
テイチクより2003年リリースの『TV時代劇グレイテスト・ヒッツ2』。
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同シリーズの1は、大瀬康一唄う『黒い編笠』やら上月晃(!)唄う『峠のバラード』なんて意外なところも抑えており健闘しているのだが、いかんせん『あゝ人生に涙あり』『銭形平次』『ねがい』など定番どころの比重が大きい。
ところが2になると、一気にマニアックさを深めたラインナップになって混沌を極めるのが素晴らしい。
1972年の田村正和版『眠狂四郎』主題歌(歌唱は沢竜二!)『孤独』だとか、主演・北大路欣也自ら熱唱する『地獄の辰捕物控』主題歌『何故にお前は』とか、我が偏愛作品『俺は用心棒』の主題歌&挿入歌『おとこ独り』『野良犬がいく』なんぞも収録されている(後者は作中で使われたフォー・コインズ版でなく主演の栗塚旭が唄ったヴァージョン)。
伊部晴美サウンドが冴えわたる『江戸の牙』OPテーマ『THE FANG』は手堅いチョイス。『暁に斬る!』主題歌の『狼よ一人で走れ』(泉洋次&SPANKY)なんかもよくぞ入れてくれました、の名曲。
しかし大目玉はコレ。
『月影兵庫あばれ旅II』の主題歌『孤独(ヒトリ)のカーニバル』(佐武明香)。このオムニバス編んだひとのセンスに脱帽するしかない。ただでさえ近衛十四郎センセイの代表作という巨大な碑の陰に隠れてしまっている村上弘明版、しかもその第2シリーズという世間じゃ「ああー、そういやそんなんもあったね」的扱いの作品から、拾い上げてくれたものである。
むろん、他にも時代劇の名作・傑作テーマ曲/主題歌は数多ある。
現在はyoutubeなんかで親切なひとがアップしてくれているので、気軽に聴くことができるものもあったりする。しかし作家に敬意を払いたい人間としては、好き放題に享受するだけして、作り手に一文のゼニも落ちない形ってのはどうにも釈然としない点があるので、あんまりそっち側には与したくない気がする。
もしアチシがオムニバス組むとしたら、入れたい曲はいっぱいあるが……これまで手をつけられていないであろう中から選り抜きしてみると、
『大江戸捜査網』里見シーズン初期主題歌『ながれ橋』(若子内悦郎)
『柳生十兵衛七番勝負』シリーズより、メインテーマ(作曲:梅林茂)
『柳生十兵衛七番勝負 島原の乱』主題歌『鵺の鳴く夜』(伴都美子)
『暁に斬る!』OPテーマ(作曲:伊部晴美)
『旗本退屈男(1973年テレビ版)』メインテーマ(作曲:牧野由多可)
『日本名作怪談劇場』メインテーマ(作曲:牧野由多可)
『お耳役秘帳』主題歌『陽かげり』(伊吹吾郎)
『荒野の素浪人(第2シリーズ)』メインテーマ(作曲:佐藤勝)
『人魚亭異聞 無法街の素浪人』メインテーマ(作曲:平尾昌晃)
『隠し目付参上』主題歌『愛のめぐり逢い』(愛川由美)
などなど、このあたりは間違いなく欲しいところであるなァ。
もっとも当節CDなぞいうものは所謂“オワコン”なのかも知れないけれど。
沈黙の映画評『沈黙の処刑軍団』今となっては佳作クラス
セガール映画は新作が出るたび駄作度に拍車がかかる。
おかげで少し前のものを観直してみると「案外イイじゃないの」と思えてしまう。遡っていくと『沈黙の陰謀』あたりですら大傑作にみえてしまうから困る。
リリース当初はダメだコリャとしか感じなかった本作も、6年を経たいまからすると「案外イイじゃない」のクチに入る。
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『沈黙の処刑軍団』(2013年11月・米 ビデオスルー作品)
原題“FORCE OF EXECUTION” =直訳:実行力
勝手に邦題『ショック療法』
エグゼクティブ・プロデューサー:ベンジャミン・F・サックス、キオニ・ワックスマン、セバスチャン・チャーター、ビン・ダン
プロデューサー:スティーヴン・セガール、フィリップ・F・ゴールドファイン
アソシエイト・プロデューサー兼ユニットプロダクションマネージャー:ジム・バーレソン
脚本:リチャード・ビーティー、マイケル・ブラック
監督:キオニ・ワックスマン
出演:スティーズン・セガール(元は政府の特殊工作員で今は裏社会のボス・アレクサンダー・コーツ)、ヴィング・レイムス(利権かっさらい虎視眈々アイスマン)、ダニー・トレホ(カレンのダイナーのコックさん・オソ)、ブレン・フォスター(足技男・ローマン=ハースト)、ジェニー・ガブリエル(ダイナー店主=アレクサンダーのお嬢ちゃん・カレン)、ギリー・ダ・キッド(ビル・デューク小型版みたいなアイスマン側近・クレイ)、マーロン・ルイス(アレクサンダー様万歳な黒人・ダンテ)、ビッグU(強そうな黒人・ラトレル)、カジャロッド・リンゼイ(何をどう裏切ったんだかよく判らないけど裏切り者らしい黒人・ビニー)、グレン・エニス(セガールおじさんのスタントダブル)
なにしろセガールおじさん、けっこー動けてる。
実働要員を若手に任せ始めたのはこのあたりからで、本作も主要アクションシーンはハースト役のブレン・フォスターという兄ちゃんが担っているのだが、セガールおじさんも要所要所で(ザコ相手に)きっちり合気道技などキメる。
無駄に細かいカット割り連発でスタントダブル多用はもはやお決まり。しかし根気よくコマ送りで確認してみると、スタントに見えて実は本人がやっている部分も多いのだ。セガールおじさんが相当肥大化したアノ巨体で後ろ蹴りなんぞ頑張っている姿には感動すらおぼえるゾ。もっともメチャそっくりな人が吹替してるんでなければ、だけど!
てなワケでストーリーはお飾りでしかないから別段どうでもいい。
暗黒街の顔役であるアレクサンダー(スティーヴン・セガール)がシマ乗っ取りを企むアイスマン(『ミッション・インポッシブル』シリーズではトム・クルーズの頼れる仲間のヴィング・レイムス)一派と抗争に至り、一度はしくじって手を砕かれ追放された腹心・ハースト(ブレン・フォスター)はコック(ダニー・トレホ)のおかげで見事復活を遂げ戦線復帰するのでした。めでたしめでたし。
見どころは前述セガールおじさんが比較的動いているところ。そして“愛娘を救出”という定番要素がきちんと盛り込まれているなァって点である。
あとトレホ流のサソリ&ハンマー療法はみんな真似しちゃダメ。
純粋に楽しんだ映画たち
今年は後半に入ってからやたらと映画をよく観た。
金もないのに映画館に行ってミーハーなメジャー作いっぱい鑑賞しちまった。
『屍人荘の殺人』浜辺美波ちゃんきゃわいいねえ、ってだけの映画かと甘く見ていたら思いのほか楽しまされて満足してしまった。
『蜜蜂と遠雷』松岡茉優ちゃんきゃわいいねえ、ってだけの映画かと甘く見ていたら思いのほか楽しまされて満足してしまった。
『葬式の名人』あっちゃん(前田敦子)きゃわいいねえってだけの映画かと甘く見ていたら(以下略)。
『アイネクライネナハトムジーク』多部未華子ちゃんきゃわいいねえってだけの(以下略)。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』マーゴット・ロビーちゃんきゃわいいねえ(略)。
『ジョーカー』ホアキン・フェニックスちゃん(略)。
最後のは違うか。
しかし今年観たなかで、期待を逆の意味で裏切られた最強のダークホースは『地獄少女』だったかも知れない。
アニメ版とはまっっっっったくの別モノと考えたほうがいい白石晃士映画と化したこの作品、アチシはめちゃんこ楽しかった。
きゃわいい玉城ティナちゃんを除いた全てが完璧だった。
任侠映画総覧計画番外地『破門組 仁義なき戦争2』は堀田眞三に始まり堀田眞三に終わるのであった
ところでこれは世間にもろもろ重大な事柄が沢山あり大まじめに論じられたほうがいいことが山積しているなかにあってオトロシいまでにどうでもよく取るに足らない問題なのだが、さりとて気がついてしまったからには簡単に捨て置くこともできない引っかかりであるゆえ指摘したい。
『破門組』にはサブタイトルがある。DVDパッケージにも、通販・個人のレビュー引っくるめたあらゆるwebサイトにも記されていないが、本編の画面を見ると『破門組 仁義なき戦争』となっている。
ついでに言っておくとDVDパッケージのスタッフ表記もエエカゲンなもので営業統括が人見剛史になっている。これも映像をきちんと確認したら木山雅仁なので併せて指摘しておく。もっとも本人たちもいちいち記憶してなさそうなのだが。
『破門組 仁義なき戦争 2』
2015年
製作・発売:コンセプトフィルム/製作協力:アトリエ羅夢/販売:オールインエンタテインメント
製作:及川次雄/営業統括:木山雅仁/プロデューサー:土屋勝則、山地昇
監修:曽根晴美/脚本:山地昇/監督:金澤克次
出演:原田龍二、堀田眞三、川本淳市、中丸シオン、木村圭作、宮本大誠、三木雅芸、仁支川峰子、大沢樹生、藤巻潤
仁義なきナントカ、ってのはもはや手垢にまみれきった失笑モノのタイトルに堕してしまった気もする。だが本作に関していえばチョット納得できる。
第1作で佐倉(原田龍二)を“破門”にしたときもそうだったけれど、市原会長(堀田眞三)の小ずるい保身根性丸出しでいながら人たらし(?)なキャラクターは『仁義なき戦い』山守親分のエピゴーネンっぽい。
つまるところ『破門組』2部作は堀田眞三に始まり堀田眞三に終わる。これ結論(暴論)。
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前作ラストでは執行委員長・藤田(藤巻潤)とツルんだ狸を始末したのち山王会本部まで乗り込みカッコつけてた“破門組”。なかなかどうしてメンバーのキャラも濃くて愉快な作品だったが、この第2作で完結。
今回は市原会長がオヤジ狩り若者集団SGC(ストリート・ギャング・カンパニーの略だそうな)にボコられる衝撃シーンから幕を開ける。
オヤジと見るや、やくざであろうがお構いなしに叩きのめすこの無鉄砲な連中どものヘッドは山王会幹部剣持組長のボンボン。即ちアンタッチャブルな存在なワケだが、被害者の筋から莫大な報奨が用意されると聞いた市原会長、私怨と欲とを任侠道のタテマエで塗り固め、佐倉ら“破門組”を動かしガキどもにお灸を据えさせると同時に剣持組長も引退に追い込むのであった。
むろん破門組を操っているのが市原会長だってェことはバレバレなので、またまた幹部会で吊し上げ。任侠魂のカタマリである市原会長は執行委員の椅子をチラつかされるやコロリと破門組を売ることに決定。
密かに佐倉の器量を買っていた九州の“お姐”尾張知枝(仁支川峰子)は市原会長の寝返りをそれとなく伝えるものの、ストイックな佐倉は心を崩さないのであった。
けれど、仲間たちもみーんなが同タイプではないワケで……。
市原会長から下された新指令に従い悪徳不動産屋(ちょいと南原宏治っぽいアク強めな悪役芝居の三木雅芸)との大アクションから怒涛の展開へと雪崩れ込むカオスなクライマックスは、はっきり言ってドタマが追いつかない。
それもそのハズ、観る側の脳ミソは既に中盤でノックアウトされている。
ナウい若者を呼び込み大繁盛させるべくクラブ開店の市原会長が、試運転の店舗でひとり踊りまくるシーンがあるのだ。
何やってんですか堀田サン。死霊の盆踊りですか。
「うるさい! ワシはいまグルーヴにノリまくっとるんじゃあ!」
堀田眞三キャリア史上でも五指に数えてよい名台詞であろう。恐れ入りました。
任侠映画総覧計画番外地『破門組 仁義なき戦争』
以前エラそーに任侠映画の定義づけなんぞしてみたことがあるけれど、そこでアチシはこのブログ内不定期連載(気が向いたら書くだけ)「任侠映画総覧計画」で取り扱う作品を東映のある時期に絞った“それっぽい”ものとひとまとめにしてみせた。
舌の根、乾いちゃおりません。
でも早速あさっての方向へと脱線してやらァ。
てなワケで今回はVシネをひとつ。任侠映画総覧計画の箸休め脇道ってェことで、番外地とでもしておきやしょう。番外地から帰って来られますといいんでやすがね。
Vシネという言葉も難しいもので、本来なら東映により商標登録されているのだから、他社のOV(オリジナルビデオ=劇場公開されず直接ソフトとしてリリースされる)作品をVシネマ呼ばわりしてはならないのだが、やくざモノのOVはやっぱりVシネの語が一番しっくりハマるのだからこう呼びたくなる。
その意味で現在のVシネ界はほとんどオールインが一手に握っていると言ってよかろう。GPミュージアム(その前は「GP」がつかないミュージアム)だったと思ったらいつの間にかオールインに社名変更しているが、群雄割拠(?)する制作会社あれこれの作品をそっくりまとめて面倒見て販売元となっている総元締みたいなところである。
前置きはこれくらいにして、本題。何となく観てみたら異様に愉快だったので困った。
『破門組 仁義なき戦争』
2015年
製作・発売:コンセプトフィルム/製作協力:アトリエ羅夢/販売:オールインエンタテインメント
製作:及川次雄/営業統括:木山雅仁/プロデューサー:土屋勝則、山地昇
監修:曽根晴美/脚本:山地昇/監督:金澤克次
出演:原田龍二、大沢樹生、堀田眞三、川本淳市、中丸シオン、木村圭作、宮本大誠、仁支川峰子、藤巻潤
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横浜に縄張りを持つ山王会傘下・市原会の市原会長(堀田眞三)は、横槍を入れてきたイケイケ田所を排すべく最古参の子分・井上にハジかせるのだが失敗。山王会幹部クラスの藤堂に手傷を負わせてしまったものだからサァ大変。山王会執行委員長・藤田親分(藤巻潤)のもと吊し上げられるのは必至である。
井上は内々に始末したものの、それだけで収まらないのは明らか。そこで市原会長、右腕と頼る若頭・佐倉恭一(原田龍二)を破門する。
全て佐倉が独断でやったということにして、市原会とは無関係……その代わり極道社会からのドロップアウトを意味する“破門”の処分を受けた佐倉は、市原会長に火の粉を及ぼすことなく全く無関係の外野として陰からサポートする遊撃隊に徹することができるワケである。うへえ、なんつー都合の良いメチャメチャなロジック。
佐倉を慕う弟分ら(川本淳市、松田優、木村圭作、宮本大誠)も従い、ここに破門組が結成されるのであった。
と、うまいこと保身したつもりだった市原会長だったが、幹部会でなな何とシマ全部取り上げられて藤堂のものにされてしまったうえ、藤堂の腹心・更科(大沢樹生)に太モモ刺されて半分引退に追いやられてしまう。
どうやら田所をけしかけてきたところからみんな藤堂の描いた絵図だったらしいと情報を掴んだ市原会長は、“破門組”佐倉を呼びつけウラ取り&始末を命じるのであった……。
『水戸黄門』の助さん役がなくなってからというもの、弟(本宮泰風)の縁を頼ってかVシネ出演が多くなってきたような龍二兄さん。今やすっかり凄味抜群の弟がハバ効かせているこの世界ではまるで迫力不足のニセ本宮といった印象なのが悲しい。
それはさておき堀田眞三(=堀田真三)が素晴らしいのである。髪は真っ白でも眉毛は黒々、一向に枯れる気配のない堀田サン。みんな大好き堀田サンのことはもちろん金澤カントクとて大好きなのだろう、いつにも増してロクでもない親分像を実に活き活きと演じさせてくれている。
重用する側近たる佐倉をトカゲの尻尾として切るにあたっての泣き落としやら、幹部会で責められての狼狽ぶり、モモぷっすりやられてのたうち回る惨めな様やら、オイシすぎる役どころでしょうこれは。今やすっかり(中略)ニセ本宮といった印象の原田龍二は霞むしかない、堀田サンの作品になっちまっているではないか。
堀田サン演じる市原会長は養豚業から叩き上げた関西系やくざ親分らしい。ハマで一体何をシノギにしているのだか判らぬが、クラブで商談しているシーンがふるっている。
「よろしか社長、これからの農業は百姓やのうてエンジニアがやる時代でっせ」……「それらの管理システムに投資するのがグローバルとちゃいまっか」
堀田眞三がグローバリゼーションを語っておる! ……素晴らしすぎる。
任侠映画総覧計画『日本暗黒史 情無用』──桜町弘子がイイのである!
一年半も放置しっぱなしだったのかコレ。ご無沙汰の「任侠映画総覧計画」は、モノホン上がり・安藤昇組長主演作だッ!
『日本暗黒史 情無用』(1968年1月/東映京都)
脚本:佐治乾、小野竜之助
監督:工藤栄一
出演:安藤昇、桜町弘子、山城新伍、永山一夫、遠藤辰雄、潮健児、菅貫太郎、加賀邦男、志摩靖彦、藤岡重慶、堀田真三、林彰太郎、唐沢民賢、中村錦司、佐々木孝丸、小池朝雄、安部徹、渡辺文雄
前年(1967)の『日本暗黒史 血の抗争』に続くシリーズ第二作……といっても作品同士の繋がりはない。プログラム・ピクチャーってそんなんばっかりだと判っておる人は判っておられましょうが念のため。
安藤組長演じるインテリやくざのサクセスストーリー的な内容で、佐治乾による脚本はややドライなタッチで独特な作品世界を現出させる。
どこかフレンチ・ノワールじみた雰囲気を漂わせるのは、こうしたアクション路線を撮るときの工藤栄一監督ならではといってよい一種持ち味ってモンではないか。
殺人の刑期を終えたやくざ・坂下(安藤昇)が恩顧の親分(安部徹)を頼って訪れるのは、架空の温泉都市“N市”である。暴力団取締りが厳しさを増すなか、親分の娘婿となりN市に根を張った坂下は、旧来とは違ったやり方を提唱し、“脱暴力”のシノギを確保していく。
といってもタテマエこそ綺麗なことを並べて、実質は結局やくざ。この過度に美化されない主人公像が、他の任侠映画群とは一線を画していて面白い。
才知に長ける坂下は着実に勢力を大きくしていくのだが、上手をいく者はあるもので……。
坂下の旧友であり関西の大組織に属する宮本(渡辺文雄)は、協力の手を差し伸べる格好で接近してきて、じわじわとN市利権乗っ取りに動き出すのである。
興業などスムーズに行うため関西の盃を受けている坂下は、地元を守ろうとしながらも裏切り者扱いされてしまう。警察も関西の絵図面通りに坂下を追い詰めにかかり、まさしく四面楚歌の状況。
生硬な芝居で滅びの美学を体現する安藤昇は、例えば鶴田浩二のような情感たっぷりのヒロイックさとは対極をなす無機質ぶり。
けれどそれが却ってどん詰まりの悲劇性を強調するかの如しで、フレンチ・ノワール的工藤アクションにはかなりマッチする主役だったかもしれない。
本作が忘れがたい魅力を放つポイントは、意外すぎるところではあるのだが、坂下の女房を演じた桜町弘子の好演。この一点に尽きる。
時代劇黄金期のお姫様女優。どちらかといえばおきゃんな町娘がハマっていたが、既にこの時期は『博奕打ち 総長賭博』に代表されるようなしっとり系オトナのオンナにシフトしていた。後年テレビ時代劇なんかにゲスト出演してもその線がもっぱらであったよなァ。
それが本作では活きのイイ鉄火肌の姐さん。登場シーンから“人殺しの前科者”坂下を見て「イカすわァ」などとポーッとしちゃう生粋のやくざ娘なのである。そして結婚してからもキャンキャン言いつつ坂下にベタ惚れで内助の功を発揮、ラストシーンまで寄り添い続ける。
さながら織田信長夫人・濃姫みたいな烈しい女の役どころは桜町弘子ベストアクトに推したいくらいで、斉藤道三ポジションにあたる安部徹、そして工藤作品では珍しく生きてエンドマークを迎える菅貫太郎と並び印象に刻まれる。