任侠映画総覧計画・現代やくざ 与太者仁義
東映任侠映画を全作品残らず手元に揃える、なんて可能なのだろうか。
あのお蔵入り作品『博徒七人』まで東映チャンネルで放映され、DVDに保存することができてしまった今、あながち不可能とは言いきれないんじゃないか、なんて気がしてきている。若山富三郎の『日本悪人伝』やら『悪親分対代貸』なんてレアものまで手に入れてしまったし、このまま東映チャンネルに入っていればそのうち実現してしまうんではないか。
東映も何をトチ狂ったのか、ついにあの『江戸川乱歩全集 奇形人間』を国内盤で出してしまったくらいである。『博徒七人』だって正規にDVDリリースしてしまう可能性がある。
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余談はさて置き……。題して「任侠映画総覧計画」、ひょっとしたらコンプリートすることそのものは実現できてしまうかもしれないが、問題はそれを全て観ることができるかどうか。時間的な面だ。無謀だが挑戦してみるか?
今回はこちら。
現代やくざ 与太者仁義 [ 菅原文太 ]
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『現代やくざ 与太者仁義』(1969年/東映東京)
脚本:村尾昭、長田紀生
監督:降旗康男
出演:菅原文太、田村正和、水谷良重、佐々木愛、渡辺文雄、高宮敬二、八名信夫、佐藤晟也、沢彰謙、内田朝雄、河津清三郎、池部良
菅原文太はファッションモデルから新東宝、松竹と渡り歩いたが芽が出ず、俊藤浩滋プロデューサーの引きで東映入り。当初は『俺は用心棒』などテレビの脇役やワカトミ映画『極道』シリーズの子分役などでパッとしなかったのだが、1969年『現代やくざ 与太者の掟』で売り出され、やくざ映画の主軸となるスターになった。
その続編がこの『与太者仁義』で、前作同様に一匹狼の野良犬やくざを演じている。役名も同じ勝又五郎なのだが、そこはプログラムピクチャーのシリーズもの。前後の作品にストーリー的な繋がりを見出すのは無意味である。
渡世の掟を重んじ、義理に生き義理に死ぬ侠客を描くのが任侠映画のメインストリートならば、このシリーズはその裏道を行くもので、個人としての無頼漢が大組織とぶつかり争う形になっている。前作『与太者の掟』はその中でも組織内の待田京介と絆が出来て一種『兄弟仁義』ふうの色合いがあったが、その点でいくぶん従来の任侠映画に似通った面も出てしまったきらいがある。
続く本作『与太者仁義』では、実の兄弟との相克が持ち出された。
スラム育ちの三兄弟、浩一(池部良)は大組織(組長は渡辺文雄)の幹部で、末っ子の徹(東映の、しかもこのジャンルには珍しい田村正和!)はその配下にいる。しかし徹は恋人(佐々木愛)との愛を実らせるべく、組織を抜けると宣言して逃走。
流れ歩いていた次男の五郎(菅原文太)はドライな一匹狼だが、ゴリゴリの構成員になってしまっている兄への反発もあって徹をかくまう。この隠れ先となるのが五郎の元仲間・黒田宅だが、これまた珍しい配役で黒田を中丸忠雄が演じている。
逃走前の脅迫仕事でちゃっかり大企業社長・田坂(河津清三郎)の弱みを握っていた徹は、これを高飛びの資金作りに利用しようと画策、五郎・黒田もこれに乗るのだが……。
三兄弟の構図はさながら『狼と豚と人間』(1964年/東映東京 脚本=佐藤純彌、深作欣二/監督=深作欣二)のよう。長男(豚)=三国連太郎→池部良、次男(狼)=高倉健→菅原文太、三男(人間)=北大路欣也→田村正和と置き換えてみることができる。
健サンよりよっぽどギラギラしていて狼らしい文太、組織のしがらみにガチガチの兄貴とは百八十度違ったはぐれ者はまさに打ってつけの配役で、この男を動かすものは……と思ったときに、実の兄弟同士という人間関係は実にピンと来る筋立てである。
その帰結はお定まり通り破滅なのだが、本家『狼と豚と人間』ほどまでにどうしようもなく救えない破滅ではない。最後の最後では長男・池部良もやっぱり血の通った兄弟だったのだ、という救いが見える。やくざモノを通して「酔える」作品を志向し続けた村尾昭のテーゼが通底していると言ってもいいだろう。
アイコンとしての狼・豚・人間に当てはめて見ることができるとは言え、結局のところは全員が「人間」。その人間たちが血みどろになって蠢く破滅の物語は、観る人間の心にもズシンと響く。
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