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「チャンバラ狂時代」のブログ。時代劇のこと、その他映画・テレビドラマやら俳優のことなど。
徒然なるままに、時々思いだしたように更新しています。

任侠映画総覧計画『博奕打ち外伝』

 ──という訳で(何のこっちゃ)。

『博奕打ち外伝』である。

 前回、待田京介がフェイク忠義者を演じた『日蔭者』を取り上げたときに、思い出したのがこの作品であった。

 

『博奕打ち外伝』(1972年7月/東映京都)
脚本:野上龍雄
監督:山下耕作
出演:鶴田浩二高倉健若山富三郎菅原文太松方弘樹辰巳柳太郎浜木綿子伊吹吾郎遠藤辰雄金子信雄、東竜子、野口貴史、松平純子、石井富子

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 明治後期の九州・若松。川船頭を束ねる江川周吉(鶴田浩二)は、土地の博徒寄合・睦会の一員である大室(若山富三郎)の一家と犬猿の仲であった。その大室が、睦会の大親分・浦田(辰巳柳太郎)直々の任命で、後任の二代目と決まった。

 睦会代貸の花井栄次(高倉健)こそ後任の最有力候補と目されていたにも関わらず、浦田親分は器量の落ちる大室に跡目を託したのだ。納得のいかない江川は、浦田親分に直談判しようとするが、浦田夫人(東竜子)からこの跡目決定の事情を明かされる。花井は大親分が他の女に産ませた実の子で、いかに出来がよかろうと渡世の筋目で跡を継がせる訳にはいかないのだという。

 表面的なことしか見ずゴネようとした己の浅はかさを恥じた江川は、兄弟分である花井と約束を交わし、大室とのいざこざは水に流すと決心するのだが……。

 

 鶴田浩二はいつもの辛抱立役で、我慢に我慢を重ねた挙句が兄弟分の健さんと、実の兄弟二人(菅原文太伊吹吾郎)そして親分・辰巳柳太郎まで失う。

 対立する相手は若富なのだが、立場上張り合ってはいても心底から憎いと思う関係ではないというのが、本作の対立関係の特徴だ。では何がこの二人を最後の闘いに向かわせたか。

 若富=大室親分の代貸・滝。松方弘樹演じるこの死神(疫病神?)のような男が全ての要因になっている。

 渡世の掟も仁義も知らない、拾ってくれた恩のある大室親分しかこの男の中にはない。大室を押しも押されもせぬ大親分にするためなら、いくらでも手を汚してやろうという、曲がった忠義の塊なのである。

 大映にレンタル移籍し、市川雷蔵の後釜として売り出されたものの今ひとつパッとしないまま大映も倒産。出戻ってもやはりパッとしない二枚目に留まっていた松方が、転機を迎えた作品こそ、この『博奕打ち外伝』だった。

 隻眼でびっこを引いた不具者、抑えたドスの効いた口調で喋る代貸・滝は、不穏そのものと言っていいムードを始終発して物語を転がす役目を担う。大室の二代目継承は確定となっているのに、それでもなお江川憎しと独断で動くパラノイア的悪役。はっきり言って、数ある任侠映画中でも異色の存在だ。

 

 外伝などと銘打たれているが、プログラムピクチャーに正伝も外伝もあったものではない、要するに『列伝』シリーズ同様のオールスター路線ということでつけたタイトルなのだろうが、名は体を表すと言おうか、本当にどこか“外れた”系統の作品になってしまったのは図らざる不思議な帰結。

 確かに鶴田、健さん、若富、そして文太と主役級スターをずらり揃えた豪華な布陣ではある。が、いかにも寂しい。そうだ、藤純子がいない。この年4月に封切られた『関東緋桜一家を以て引退してしまったのだ。

 それだけではなく漂ううら寂しさは何か。オールスターと呼ぶには、これまで任侠映画を彩ってきた悪役たちが全然出ていない。安部徹がいない。天津敏がいない。名和宏渡辺文雄も、河津清三郎水島道太郎もいない。善玉にも応用の効く嵐寛寿郎大木実待田京介たちもいない。そして、引退した名花・藤純子はともかくとして、女優陣も驚くほど少ない。わずかにヒロインとして馬賊上がりの芸者・浜木綿子が配されているのみで、ロマンス的要素はお飾り程度に添えられるのみだ。

 さらには主役級である高倉健菅原文太も、実に呆気なく死亡退場していく。

 要するにこれは、鶴田VS若富・松方の闘いに集約された映画なのだ。悪役でお馴染みの金子信雄遠藤辰雄もチョイ役の善人に廻し、焦点を絞った筋書きだ。ラストの殴り込みすら、お決まりパターンの大立ち廻りは影をひそめ、鶴田・若富の一騎打ちとなっている。勝負がついてから子分たちがワラワラと駆けつけるが、そこから大殺陣に発展することはない。

 

 形式を守っていないから駄作だって? そんなことはない。パターン破りにこそ面白いものがある。とうに熱狂から醒めてしまったこの時期の任侠映画にあって、一種突き放したかのような対決ドラマを描いた本作は、もしかすると脚本家・野上龍雄が示した“任侠映画への意思表示”だったかもしれない。

 同様に任侠映画の主翼を担っていた村尾昭と比較して、早くからテレビにも活躍の場を移していた野上龍雄は、どっぷり首まで浸かっていた村尾昭よりも、いくぶん引いた視線で任侠映画という色褪せかかったジャンルを見つめていたかもしれない。そして、出来上がった枠組みの中へ巧みに異分子的な要素を投入し、“内部からの破壊”を試みたのかもしれない。今や確かめようのない推論だが、何とはなしそんな気がしている。

 翌年には仁義なき戦いが封切られ、その後も任侠映画と呼べる作品はぽつぽつとながら製作が続いていくが、それはすでに『仁義〜』の登場によって木っ端微塵に打ち砕かれてしまったものの余韻でしかない作品群だった。

 破壊が完全になされる以前の、破壊工作の痕跡。そこに『博奕打ち外伝』を観る面白さはある。

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