時代劇ライフ2017年3月
3月は時代劇専門チャンネルにて念願の萬屋錦之介・主演『仕掛人梅安』を拝見。藤枝梅安モノでこれだけがお目にかかる機会に恵まれていなかった。怪作との評判は知っていたのだが東映チャンネルでもなかなかやってくれず、此度の没後20年企画でようやく時専のラインナップに載ったのでもう飛びついた次第。
いやァ、聞きしに勝ると言おうか……伊丹十三がとんでもない重量感を持ったドロドロ近親相姦愛憎劇。その「あにさん」に依存した妹が小川真由美って、これまたエグいキャスティングだ。いま一人の異母兄を演じる中村勘五郎もヨロキン版『鬼平犯科帳』における葵小僧が印象深かった人。仕掛けのシーンで何故か突如クマドリが現れるヨロキンの外連味を以てしても吹き飛ばしようのない強烈な悪が相手で見応え充分であった。しかし池波先生は怒ったろうなァこういうゲテモノ臭いのは。
そうヨロキンは3月10日没。先月は丁度20回目の命日を迎えたのだ。各局特集を組んでおり、時専なぞは7ヶ月に渉って特集を組んでくれるようなので、今後もアチシが未見の『日本犯科帳』シリーズなどやってくれるに違いない。一番見たいのはヨロキンが助演に廻っている作品だが『弐十手物語』だ。ヤング層を狙って大コケしたというが時を経れば意欲作として評価すべき点が見られそうで、非常に興味がある(とか何とか言って、どうせ山本みどりのヌードが目当てだろうって? その通りです)。
さりながらヨロキン主演作はかなりの量を既に録画してディスクとして持っているので、法要の意も込めてこれらを掘り起こしあれこれ視聴。さながら“ヨロキン月間”のようになった3月であった。
破れシリーズは、やはり『破れ奉行』が最もブッ飛んで痛快な気がするが、続く『破れ新九郎』もどこか突き抜けた感じがして面白い。
小鳥・金魚から牛・馬まで何でもござれ、ただし人間お断りの獣医さん・新九郎は、「人間じゃねえ」悪党どもを斬りすぎて人そのものがやんなっちゃった刀舟先生のなれの果てか?
と言うよりむしろ、同時期に目の死んだ役者ども(その中にはミフネも含まれる)に嫌気が差し、鷹を主役にと『江戸の鷹 御用部屋犯科帖』を書いた池田一朗の思いが多分に出ている気がしてならない。
役者が、映像が表現できるものの限界を感じて脚本の世界から離れていくことになる池田一朗の眼差しからすればミフネだろうがヨロキンだろうが納得のいくものはできなかったんじゃないのかなァ。ワンワンニャアニャア、キィキィコケコッコと動物だらけの『破れ新九郎』からそんなことを思うのは深読みのしすぎというものであろうか。
ともかくも池田一朗が、温厚なルックスの内に恐るべき烈しい精神を秘めていたのは後年「隆慶一郎」名義で書いた一連の小説群が示す通りだ。
萬屋錦之介=中村錦之助特集は当然ながら東映チャンネルでも組まれているが、ラインナップは『若き日の次郎長』シリーズや『源氏九郎颯爽記』『一心太助』等々、最近やったものばかりの印象。こちらとしては小さい頃観て最高に楽しかった『殿さま弥次喜多』シリーズをやってもらいたいのだが……。
このところハードディスク整理は少し落ち着き、録り溜めたDVDを視聴する時間が大分取れているようになってきている。村上弘明・主演の『月影兵庫あばれ旅』やら『影同心』シリーズ、松方弘樹の『名奉行遠山の金さん』などをちょこちょこ観るほか、大半の時間を充てているのが実は『暴れん坊将軍』シリーズ横断視聴。第1シリーズである『吉宗評判記』からVII、VIIIといった後期シリーズまで手当たり次第にばんばん再生している。
ワンパターンだマンネリだと言われようが、様々な脚本家が手を替え品を替え毎回の筋を捻り出して作っている訳で、やっぱり面白いものは面白いのである。大きくひとくくりに片付けてしまわないで、拾い上げるものは拾い上げたいものだ。
またシリーズ横断していて分かるのは、主役・松平健のチャンバラ熟練過程。最高に脂が乗っていると感じるのはII後期あたりで、師匠(カツシン)の座頭市ゆずりという訳ではなかろうが身体の回転は実にキレがあるし、刀身の描く弧の美しさはちょいと近衛十四郎っぽく思えたりもする。
近衛十四郎といえば、この人は没後40年を迎える。東映チャンネルでは来月(5月)に『雲の剣風の剣』『薩陀峠の対決』といった未ソフト化のお宝をやってくれる模様(後者はチャンネルでも初とのこと!)。有難いのは有難いが、ついでにテレビ版『柳生武芸帳』現存の第1話も放送してくれんかなァー。
かくも時代劇に魂を売って日々を送っているが、実のところ生活は火の車であんまり食えていなかったりする。まァ何とかなるか、の精神で今日もパン耳を齧り、じっと手を見る。