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「チャンバラ狂時代」のブログ。時代劇のこと、その他映画・テレビドラマやら俳優のことなど。
徒然なるままに、時々思いだしたように更新しています。

無宿人御子神の丈吉 川風に過去は流れた

 あれーッ、岐阜・柳ケ瀬のロイヤル劇場(http://www.tochiko.co.jp/royal.html)で原田芳雄・主演『無宿人御子神の丈吉 川風に過去は流れた』(1972)なんてェのやってるじゃない!

 ってんでイソイソと鑑賞に駆けつけたアチシでありました。

 さすがにお蔵入り映画である中村敦夫・主演『夕映えに明日は消えた』(1973)みたいなレアものは難しいであろうが、充分お宝といえる作品(海外版しかDVDが出ていない……)を大画面で観られるとあってマニアは居ても立ってもいられなくなるのであった。

 

 入場料500円の入れ替えなし。ええ観ましたとも、二回半みっちりと。一回目の終盤と二回目の中盤をウトウト夢見心地で、あとから観直しつつじっくりという贅沢極まる鑑賞法。ロイヤル劇場様様に感謝するしかないというもの。それでノート片手にクレジットタイトル凝視・データ採取も怠らないというこれでもかのマニア根性。どうだ日本映画データベースでも確保できていない完全データがここにあるぞう。

無宿人御子神の丈吉 -チャンバラ狂時代

 

 大手データベースサイトへの対抗意識丸出しになっている吉外@サイト主の性根はともかく、映画はどうだったのかというと……。

 いやはや、実にその、何と申しましょう、ヘンなものを観たと言おうか。

 

 冒頭(アヴァンタイトル)は前作『牙は引き裂いた』のダイジェストか、足を洗って堅気暮らしに落ち着いていた御子神の丈吉(原田芳雄)が指を潰され妻子を殺され、再び無宿人として復讐の旅に生きるまでの経緯が足早に鈴木瑞穂のナレーションで語られる。

 このシークエンスだけでも悪玉の親分・南原宏治やその代貸伊達三郎、そして汚された末の血塗れたおっぱいポロリした死体の北林早苗などお腹いっぱいの感があるのだが、威勢のいい渡辺岳夫サウンドに乗った丈吉の物語は容赦なく突き進んでいく。

 同じくダイジェスト部分にも登場し何の説明もないもののオイシイ役どころであることだけは判るアイパッチの渡世人・疾風の伊三郎はテレビ木枯し紋次郎でブレイク中の中村敦夫俳優座脱退のお仲間である「番衆プロ」勢揃いの感もある配役がまた本作の見どころか。負傷した仲間を連れて歩くところ、丈吉にぶつかって因縁つけるも返り討ちで半殺しの目に遭うチンピラは紋次郎スタンドインも務めた阿藤海

 続いて舟上で女(片乳ポロリの相川圭子)に絡むはこれまた紋次郎スタンドイン経験者・大林丈史大映残党・木村元。あっという間に海ポチャの大林丈史はさておき、綺麗な海を血糊で染めながら出色のみっともない死に様を見せる木村元から仇敵のひとり・開雲の長五郎(井上昭文)の居所を聞き出す丈吉。関八州の親分衆が集う潮来・初代榎松五郎三回忌の花会へ殴り込んで嬲り殺し寸前のところを“雷の貸元”こと韮崎重三郎(内田朝雄)の一声で命だけは助かる仕儀に。

 これがため渡世人の世界で身の置きどころがなくなった丈吉は、流れ流れた末、くだんの花会にも居合わせた矢代の梅蔵(内藤武敏)の計らいで、雷親分の家出娘・お雪(中野良子)護衛という役目を任されて一路韮崎へ……。 

 大親分の娘ということで周囲からやたらと畏怖されることに反発しているジャジャ馬娘(ハマりすぎるほどハマり役だぞ、中野良子。しかも海辺でお握りパクつき指に米粒くっつけてるあどけなさも絶妙)に振り回されるロードムービー……かと思いきや、そうはいかない原田芳雄主演映画。振り回しているのはむしろ丈吉のほうで、もうひとりの仇敵・国定忠治(峰岸隆之介)がお縄になったとか唐丸破りしたとかいうニュースに過敏な反応を示す復讐鬼・丈吉は手前勝手にお雪さんを引きずり回し、挙句に慰まれたうえ命を落とすという悲惨な結末を与えてくれる。

 このときの敵役は前作からの因縁らしく丈吉をつけ狙う巳之吉(菅貫太郎・やっぱり中村敦夫ファミリーのひとりである)。お雪さんの死は巳之吉の投げドスを丈吉が払いのけたのがぶっすりというトバッチリもいいとこな可哀想なもので、もはやこのあたりになってくると物語の必然性がどうとかいう脚本の根本すらどうでもよくなってくるフィーリング映画と言えよう。

 やはり特に必然性もなくきっちり落とし前つけるような殊勝面した丈吉が雷親分のもとへ遺髪を届けに来ると(このときの韮崎一家代貸入川保則っぽいけどクレジットに名前がないなァ)、これまた必然性もなく寛大さを見せて雷親分は仇敵ふたりの居所を示唆。内田朝雄のこんなオイシイ役はもしかしたら松方弘樹・主演『刑務所破り』(69年大映)以来なんじゃないか……ってのも本作の(無理矢理に探し出す)見どころかもしれない。

 お雪さんが無事であろうとなかろうと、目的はその仇敵情報だったのであろう丈吉、教えられたとおり松戸の宿へ訪れ、実に友情出演という以外に何の必然性もないのに味がある芝居する飯盛女の市原悦子と邂逅。土地の親分・助三郎(安部徹)と対立勢力・流山の吾助(加藤嘉)の抗争に助っ人することになり……ああもう物語の筋なんてあってなきが如しだ。とにかく敵のひとりである長五郎を叩っ斬ってオシマイなのである。

 

 1972年の東京映画製作・東宝配給。原作は笹沢左保子連れ狼』『影狩り』など劇画映像化全盛の頃とあって(劇画原作でないにも関わらず)過剰な残虐アクション満載の本作、まともな筋やら人間ドラマなどを見出そうとするのが無理というもので、全編これ復讐しか頭にない丈吉・原田芳雄のキャラクタァに引きずられっぱなしのトリップ感を味わうのが正しい楽しみ方かもしれない。その意味では梶芽衣子・主演修羅雪姫に近いものがあるか。

 名悪役・安部徹が適度に悪そうな親分役をやっているにも関わらず、この助三郎親分は叩っ斬られることもなく、井上昭文の死に様を見て呆然、スゴスゴと子分を引き連れて立ち去っていく。これを見ても明らかなように、復讐に燃える御子神の丈吉の凄味に触れて第三者はただポカーンとするしかないのだ。それ以上、深く考えても詮ないことなのだ。

 スター映画が成立しなくなっていった時期と重なる1972年時点。かくまで「原田芳雄」個人のパーソナリティで押し通してしまおうという映画があったのか、と感慨を新たにさせる作品。『無宿人御子神の丈吉』シリーズを無理に評価しようとすると、落ち着くのはそんなところなのだろうか。

 

*一作目で如来堂の九兵衛(南原宏治)、二作目で開雲の長五郎(井上昭文)、そして三作目で国定忠治(峰岸隆之介)と仇敵を討ち果たしていくシリーズかと思ったら、そうでもないみたいネ……ネット上のレビューを見て知ったのだが、ますます呆然……。何とワケの判らん映画なんだ!